私が幼かったころそれは魔法の箱だった。 少年時代になるとそれは遊び場へと変わった。 そして今は・・・仕事でのかけがえのない相棒である。 第一話 遭遇 ―encounter― それは・・・私が中学生になったばかりのころだっただろうか。 数学の教師が教室にとても大きな箱を持ってきた。 ボタンのたくさんついた板があったから、あれがうわさに聞く「ワープロ」だろうと思った。 しかしなぜ数学でワープロが必要なのだろうか? そんな私の疑問をよそに授業は始まり、いきなり問題が出された。 最初のほうは小学生レベルの問題だったためみんな答えようとして盛んに手が上がったが、 次の問題が出ると全員沈黙した。 3+(−2) 中学数学最初の難関、負の数の計算である。 ここで数学教師はワープロのスイッチを入れた。 そして何か細かい作業をした後、画面には数直線と右方向を向いた人の形をした絵が映し出された。 このとき私は初めて自分の認識が間違っていたことに気がついた。 あれは「ワープロ」ではなく「パソコン」だ、と。 そして数学教師が説明とともに「3」の数値を入力すると画面の中の人が右に三歩進んだ。 次に「−2」の数値を入力すると右方向を向いたまま左へ二歩進んだ。 その結果答えは「1」となった。 答えが出た瞬間、教室がどよめいた。 計算の答えがあっさりと出たことに驚いたのか、 それとも画面の動きのほうに驚いたのか。 おそらくは後者のほうだったのだろう。 興味を引かれた同級生達がさかんにいろいろな数字をあげていく。 その度に画面の中の人は右へ左へと休む間もなく歩いていく。 次に引き算の問題が出された。 3−(−2) ―後に塾講師となって中学生に数学を教えたときに頭を抱えたのが 「負の数を引くともとの数よりも大きくなる」 という概念をどのようにして理解させるか、という問題だった。 これが理解できるかできないかによって 中学数学が好きになるか嫌いになるか、最初の分岐点となるといっても過言ではないだろう。 すでにパソコンで遊んだことにより負の数の計算がおぼろげながらわかってきたところで、 またしても数学教師はパソコンに数値を入力した。 足し算のときは画面の人は右向きのままだったが、 引き算の記号を入れた瞬間今までとは逆の「左」を向いた。 正の数なら前進、負の数なら後退、というルールがすでに頭に入っていたから、 そのまま後退し、答えは「5」になるだろう、との予測が立った。 そして答えは予想通り「5」だった。 同級生達も同じ答えを予想していたらしく、正解したことを喜んでいた。 今考えてみるとこれが「パソコン」を見た最初の記憶だったと思う。 その後技術の授業でも何度かパソコンに触ったような記憶はあるが、 内容まではどうしても思い出せない。 その後高校に入学するまでパソコンに触れる機会には恵まれなかった。 つづく
次回予告 ついにパソコンを購入! しかし使い方がまったくわからない! このまま部屋のオブジェとなってしまうのか? それ以前にほんとーにこの話、続編を書くことがことができるんだろーか? さまざまな謎を含みつつ展開される 第二話「接触 ―contact―」! 筆者の文章力にはあまり期待しないで待て!!